10月8日の、東京新聞生活面から西田小夜子執筆の文章を無断転載。
東京新聞2008年10月8日付朝刊11面の、「妻と夫の定年塾」を無断転載。ネットにはなかったようなので、手入力しました。
出勤時に読んで、もう一度読み返した。さらにもう一度読み返した。まだ48歳ではないけど独身で、古いアパートに独り暮らしではなく親元に同居しているし、親の年金を宛にしてはいないけど、こういう息子は悲しい。そんな息子を、大社長と偽ってまでも自慢している母の心を思うと、哀しい。
大きくなった子供の役割は、親を安心させてあげることだ。何か買ってあげることや、どこかに一緒に旅行に行くこともいいけど、親が家庭をもったように自分も家庭を持ち、親が自分を生んでくれたように自分も子供を持つことが、一番大事だと思う。
独身は楽しいかもしれないが(オレは楽しくないが)、やはり、育ちの違うどこかの誰かと結婚して、ともに暮らしていくことか、幸せなんだと思う。

今のオレにはとっても難しいことみたいだけど。

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光代さんの息子自慢は有名だ。六本木にある会社の社長だという。48の息子は、二ヶ月に一度母を訪ねてきた。
光代さんの両隣の家は6、70代の夫婦だが、高齢の光代さんを気遣っていた。庭木の枝を切り、草を取る。姿が見えないと電話した。腰を痛めたと聞けば、夕飯を届けた。ところが自慢の息子は、世話をかけてる隣の家に挨拶もしなかった。
「でかい雑木を切れば庭が明るくなりますよ。息子さん金もちなんでしょ。業者に頼んであげるから一度うちへあいさつによこしてよ。いつも黙って来て、いつ帰ったのかもわからないから話す機会がないんだよね」
隣のご主人が言うと、光代さんは丸い背中をそっくり返して反対した。
「だけど息子は大社長だからね。偉すぎちゃってペコペコされるのに慣れてるでしょ。ヒトにあいさつするの苦手なのよ。木がどうしたなんて聞きたくもないと思う。子どもが偉くなりすぎると親は大変だわ」
光代さんは夜になると泣いた。
息子は独身である。何をしてるのかよくわからない。古いアパートの部屋に一日中こもり、パソコンをいじっている。ちょっとした風向きで、お金が入るらしい。
夫の遺族年金は息子が管理していた。彼の大事な収入源なのだ。年金が出ると、母親が命をつなぐためのギリギリの金を届けにくる。あの子は社長よ、とつぶやき、光代さんは涙を振り払った。
(西田小夜子=作家・夫婦のための定年塾主宰)
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写真は本文とは関係ありません。

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